あなたが幸せになることを許さない
「貴方には私の騎士となっていただきたいのです」
壇上の少女はそう告げた。
「なんで、私?ジノが来たでしょう?彼にしたらいいじゃない」
カレンは見上げて言い返した。
そもそもカレンにはこの展開がわからなかった。
ようやく訪れた平和の中で、復学した学園へ通い、平穏を楽しんでいた。
それが放課後、拉致されるようにブリタニア領事館に連れてこられ、来日中のナナリー皇帝の前に出されたのだ。
再会を喜ぶ間もなく告げられた言葉に、カレンは鼻白む。
「あの方はダメです。お兄様の意図をわかってらっしゃらない。信念の無い方に用はありません」
微笑むナナリーに違和感を憶える。
自分の知る彼女はもっと柔らかで、儚い存在だった。
いつも兄の影で守られているような、自分も守ってあげたくなる、そんな存在だった。
それが−−−−。
それが他者を従える威圧感を纏っている。
以前と違って瞳が開いているからか?
それにしても印象が違いすぎる。
「あなた、本当にナナリーなの?」
カレンは戸惑う。
目の前の少女に。
「嫌ですわ、カレンさん。もちろんナナリーですよ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが妹、ナナリー・ヴィ・ブリタニアです」
ナナリーは優雅に挨拶してみせる。
「印象が違ってて驚いたわ」
カレンはふと思う。
以前、自分が捕虜として捕らえられていた時と似ていると。
対する雰囲気は180度違ってはいるが。
「私を愛し、守って下さったお兄様はもういません。お兄様の造ったこの世界を守るのは実妹である私の役目だと思っています」
毅然と告げるナナリーに強い意志を感じる。
「で、何故私を騎士に、という話になるのかしら?」
カレンは自分が連れてこられた理由について再度聞いてみる。
「貴女が相応しいと思ったからですわ」
キッパリと告げるナナリーにカレンは眉を上げる。
「貴女は黒の騎士団のエースでした。そして今は日本人。そんな貴女が私の騎士となって傍にいて下されば、ブリタニアと日本の和平の象徴になるでしょう」
「あなたには『ゼロ』がいたと記憶しているのだけれども?」
「『ゼロ』は正義の味方。『世界』のために戦う騎士です。私個人に仕えるわけではありませんし、許されることではないのです。『ゼロ』はこの世界を護り続けなくてはならない。それ以外での存在はないのです」
「ナナリー?」
ナナリーの言葉に『ゼロ』に対する憎悪が見えた気がした。
「それなら藤堂さんでもいいじゃない。私じゃなくても・・・」
「貴女でなければならないのです」
カレンが他の候補を上げようとするのをナナリーが遮る。
「貴女はまだ、黒の騎士団のエースなのでしょう?」
ナナリーがカレンの胸を指差す。
そこには紅蓮の起動キーが首から吊されている。
カレンのお守りであり、誇りであり・・・・・・戒めでもある。
「それを胸に日常生活を送る意味はなんです?自慢ですか?自分は悪逆皇帝と戦った英雄であると。自分は黒の騎士団のエースであると」
「ちがう!」
カレンは叫ぶ。
「ちがう!ちがう!ちがうっ!これはそんなんじゃないっ!」
キーを握りしめ、カレンは首を振る。
「では、なんだと?普通に暮らしたい人がそんな物を必要とするとは思えませんが」
カレンとは対照的に冷ややかにナナリーは告げる。
「これは私の誇り。そして戒め。ルルーシュを独りで逝かせてしまった私の戒め」
カレンの瞳から涙が零れる。
「そばにいたのにっ!ずっとそばにいたのにルルーシュの想いに気づけなかった。最後まで彼を信じることが出来なかった・・・・・」
涙が止まらない。
「知ってたのに。ルルーシュが優しくて、どんなに冷たい態度でも、みんなのこと考えてくれるって、一番良い方法をいつも考えてくれるって。私は知ってたのにっ!だから・・・・」
カレンは顔を上げる。
「だから、何かあったらすぐに飛んでいけるように。この平和を守れるように。いつも持つことにしたの」
涙は止まらないが、笑うことは出来た。
「それでは」
ナナリーも微笑む。瞳はカレンを射抜いたまま。
「それでは、私の騎士となって、この世界の維持に協力して下さいな」
「そ、それは・・・・」
カレンは『日本人』を選んだ。
それがブリタニアの騎士になるのには抵抗がある。
「カレンさんはお兄様のそばにいた。誰よりもそばに。そう、私よりもずっと近しい存在でした」
ナナリーが淡々と告げる。
「それでも、貴女はお兄様を裏切った。お兄様はカレンさんを信じていたのに。最後まで案じていたのに」
最後にルルーシュの身体に触れた時に流れ込んできた記憶。
兄はこの女戦士を信頼し、案じていた。
「お兄様の想いを貴女は最後に知ったはず。なのに、お兄様の築いた世界で平穏に暮らすおつもりですか?何も忘れたふりをして」
ナナリーの視線がカレンに突き刺さる。
「何かあれば、駆けつける?そんな言い訳が通用するとでも?私は貴女を許しません。私も、お兄様の想いに気づけなかったこの世界を許しません。お兄様のいない世界など私には意味のない物です」
ナナリーはその瞳で、カレンに語る。
「それでも。それでも、お兄様が破壊し、創り、望んだ世界です。ですから−−−−−」
ナナリーの手がカレンに差し出される。
「ですから、私と共にこの世界を護って下さい。お兄様に愛されながら、お兄様独りに背負わせてしまった私達の贖罪です。貴女の人生を私と共に」
残りの人生を世界に捧げろと告げる。
それが生き残った自分達の使命だと。
誰もがルルーシュと戦った自分を褒め称えた。
英雄だと。正義の戦士だと。
そんなものじゃないと叫びたかった。
全てをルルーシュに被せてしまった負い目がカレンを押し潰しそうだった。
償いの、断罪の手を待っていたのかも知れない。
そして、その手が今、目の前に差し出される。
「貴女の騎士になります」
カレンは膝を折る。
「私ではなく、この世界を護って下さい、カレン」
ナナリーが微笑む。
「Yes,Your Majesty!」
カレンの人生はこれで決まった。
女としての普通の幸せは望めないだろう。
それでも。
それでもカレンは贖罪の道が示されたことに安堵した。
これで良心の呵責に苦しむ日々から解放される。
彼の世界を護ることが自分の誇りとなる。
カレンは心からそう思った。
そして、もう一人。
ナナリーは膝を付くカレンを見下ろして笑った。
自分の手に堕ちてきた緋色の騎士を愛おしく思った。
愛する兄を裏切った彼女が普通に生きて、普通に幸せになるのは許せなかった。
胸で揺れている紅蓮の一部が許せなかった。
だからカレンの良心につけ込んだ。
望んでいるであろう言葉で雁字搦めにした。
兄に近しく、兄の寵愛を受けていた彼女を許すことが出来ない。
だから自分の下で修羅の道を選ばせた。
自分でも醜い嫉妬だとわかっている。
兄がそんなことを望んでいないことも。
それでも−−−−。
私はあなたが幸せになることを許さない。
私と共に贖罪の日々を。
えー、相変わらず暗くてすみません。
カレンがね。
フツーに暮らしてるのに違和感だったのですよ。
何もなかったように学園に通ってて。
でも、首からは紅蓮のキーがあって余計におかしいなぁと。
ルルの最後にカレンは気付いていたのに、なんでフツーに笑って、ルルに語ってるかなぁと。
なので。
ナナリーと共に堕ちて貰いました。
とりあえず、カレンは何らかの形でルルのために動いて欲しかったのが本音です。
それがこんな形になっちゃった。